三遊亭歌橘「ASHIKAGAN GRAFFITI」
だんだんと肌寒くなってきました。
これからの季節、我が故郷は、紅葉はもちろんのこと、
市の中心を流るる渡良瀬川は鮭の溯上が始まります。
山を越え谷を 越え、幾年もの年月を経て、故郷凱旋の母川。
そして、最期は新しい生命を遺し て朽ち果てる。
毎年、その雄姿を橋の上から見届けて踏ん張る気力を貰っている。
そう云うとカッコイイかも知れませんが、
実際のところ、こちとら鮭の亡骸 を貪り喰うハゲタカのようなもので、
嗚呼、我が人生「他力本願」哉・・・・・・。
さて、話は変わりますが、先日、中学校時代の友人知人と呑み交わしました。
懐かしい昔話に華を咲かせてと、言いたいのですが、
わたしは、この同窓会とい うものが苦手で仕方がない。
何しろ中学三年間の登校日数は両手で数えられる程、
周りから、ハレー彗星のように扱われ、
在校時の想い出は学校外のぶっ飛ん だ非行話しかありません。
それでも義理人情に厚い「友人」と「知人」と名乗り 出て下さる御仁のお陰もあり、
こうして「同窓会」と呼ばれるものに図々しく顔 を出して、ふてぶてしく居座れます。
「落語家は一度会った人の顔と名前を忘れるべからず」
入門時、師匠より承った教訓です。
心理学でも、いちばん人が傷つくのが顔と名前を忘れられること、だそうで、
人様を喜ばせなければいけない芸人稼業とし て、最低限の心得なのでしょう。
だからこそ、ウチの一門は、どこぞやで会った のか思い出せない人でも適当かつ、
一生懸命に合わせるという伊賀忍者から学んだ術を操ります。
伊賀忍者は余計ですが・・・・・・。
ところがどっこい!
同窓会で馴れ馴れしく話し掛けて来る同級生の顔と名前が全く一致しない。
落語家は一度会った人の顔と名前・・・・・・って、中学卒業して二十年、
向こうは「歌橘さん、幼稚園の頃から変わらないよね」って、お前は誰なんだ⁉︎
「歌橘師匠! すっかり立派になられて・・・・・・」 だから、お前は誰なんだよ⁉︎
まあ、野郎は何とかなる。
何とかならいなのが 女性軍。
「覚えている?」
ほろ酔い状態の甘い言葉で近付いて来た某女子。
否や、女帝のふさわしい。
ノーメイクで初々しく過ごしていた微かな記憶を塗り潰すかの如き厚化粧。
もはや、同窓会だか、ハロウィンのイベントだかわからない。
更に厄介なのが、見た目バリケードだけど、
実際はデリケートの乙女心なので、男性よりも気を遣う。
この、不思議の国からやって来たハンプティダンプティが、オレの側をぴったりマークしている。
更に! 更に! 更に!
ほろ酔い状態の彼女の口から出た言葉が
「わたし、歌橘くんから貰ったラブレター、今でもあるんだ」
ゲッ‼︎ あーた、初恋の◯◯ちゃんだったのか⁉︎
昔を懐かしむのもいいことだが、
過去は 過去として、パンドラの箱に封印することも大切だと実感した足利の夜。
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